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TANBO プロジェクト2016

土器ダクト制作/野焼きアースワーク

 

燻炭( くんたん) 焼き

 田んぼの真ん中で、籾殻を山にして炭にしている場面を見たことはありませんか。籾山の中央にブリキの煙突を立て、煙突の中に火種を落とすと、半径1m ほどの籾山ならば一昼夜で大方が黒山になります。不思議なことに窯にも入れず、空気にさらされているのに炭化するのが不思議ですね。大方が黒山になったら、山を崩してかき混ぜる間に全部黒くなりますので、水を掛けて冷やします。数日の後、乾燥させてから収炭します。燻炭は土壌改良材として有機栽培を行う農家では大変重宝されています。不思議なことに、いったん籾殻に着火すると空気中であるのにも関わらず、炎を出して燃えることなく燻り続け、炭化がゆっくりとすすんでいきます。おそらく、籾殻に多く含まれるシリカ分が燃焼を抑え、分解熱を得た籾殻はゆっくり熱分解を周囲へ、奥深くへと炭化が進行していきます。また、面白いことには燻炭焼きの際に、籾殻山の中に薪を忍ばせておいても一緒に炭に焼けます。丘陵地がなく雑木林が乏しいが籾殻ならば豊富にある地域。稲作地帯の農家の人たちがとった炭焼の方法です。

土器ダクトの提案

 そもそも農家がブリキの煙突を使って燻炭を焼いていることからヒントを得、煙突を彫刻オブジェとして粘土で創り、実際に使ってみようと考えました。土器ダクトは、燻炭を焼く道具として排煙の機能を持ちます。粘土は軟らかく、一挙に1メートルを超すような大きな作品を創ろうとすると、制作途中で自重により押し潰れてしまいます。そこで、何人かでグループを組み分割してどうにか持ちこたえられる50cm 程度で制作し、積み上げて一体となるな土器ダクトに仕上げる方法を考えました。組み作品は人間社会の縮図として自他の距離を見つけ出す、あるべき関係性に向け働きかけがあります。機能を回復した芸術の働きかけは、芸術が次代社会に必要とされる所為と言えましょうし、近代の個人主義から分派したエゴ(利己的・放漫な自由)を超越でき、創造性が共有されると考えました。

 

 

土器ダクトの制作について

 基本的には一本につながったダクトの役割を果たせるように、煙漏れのないように配慮します。ダクトには口径と底径があることから、組込みの部の径を統一することで、他作品との組み合わせや、破損して組み替える場合など、他のパーツとの置き換えができます。勢い、グループを解体しても、参加者相互との置換を念頭に置くことで仲良く組み合わせが可能になり、融合と拡がりがもたらされると考えました。もちろん、造形を決定する外形は、作家各々の意匠に委ねられます。入り口と出口があり、径を二種設けるのは合理性がありますね。他作品パーツとの組み合わせが限定されますが、すこし不自由であることも人間(じんかん)らしいかもしれません。入り口と出口を鏡合わせに一セットとするなど、すこし工夫すれば変化を出す手立てはいくらでも開発できましょう。但し、径を三種類以上にしてしまうと組み合わせを拒否してしまうことになり、融合の合理的な根拠を失ってしまい差換え不可能になります。挙げ句の果て、その役割までも否定した自由の放任で招いた自己表現(エゴ)として、無用なオブジェ(物体)を生み出し、混迷極まる近代美術に陥ったことをご確認下さい。われわれ社会芸術では、芸術にもう一度役割を持たせ、秩序回復に向けたモーション(力の発揮)が、次代に向けた芸術の役割であると考えます。ここで重要なのは、排他的な個性の独善や無用な純粋形ではなく、恊働と交換から生まれる創造性であり、有用性の回復にあります。おそらく縄文から続く農を中心にした生活のあり方から、創造性のかたちが見えてくるのではないかと考えるのです。

 

 

炭焼の原理で野焼きを考える

 炭焼では、無酸素状態の窯の中で行われます。炭材が熱せられると分解を始めます。その際に発する気化熱が、自らを熱し分解を継続していきます。水蒸気や水素や炭素などの化合物を気化物質として膨張させ煙突から排出し、炭素や灰分などの固形物が窯内に残ります。この残留物が木炭として収炭されるのです。ところが、燻炭焼きは露天で籾殻が炭に焼ける不思議な出来事です。おそらく籾殻山の中では、炭窯と同様な環境と状態が成立していると考えられます。このことについて二つの理由を挙げてみました。ひとつは、籾殻は米の被う殻で、破れて椀状の形状となり、内側に空気を絡め滞留させるので、籾殻山の中へは気流は入り込みにくい構造です。もうひとつが、籾殻には大量のシリカ分(17%)が含まれており燃えにくいのです。そこで着火しても炎を上げては燃えず、燃焼よりも熱分解による炭化を進める働きの方が早く、順次炭化が移され拡がって行きます。露天で炭化が進む原理と考えられます。燻炭を焼くには籾山の天辺に着火させるだけで炭化は進むのですが、ダクト焼成では籾山の中心部に火種を落とすので、およそ三分の二程度の短縮時間で焼けると見込まれます。

 

 

野焼き- 土器ダクト焼成 について

 縄文の火焔土器や焼町土器などの大型土器は、どのように焼かれたのだろうかと想像したことから、農業残渣を使っての土器の野焼き焼成に思い当たりました。籾殻の炭化温度が300~350℃程度で、燻炭の燃焼温度がその倍の600~700℃程度です。この温度の二段階上昇を余熱と焼成熱として活用し、土器を焼こうと考えたのです。しかし、粘土の焼成温度が660℃ですから、燻炭で土器を焼くにはやっとのことになります。対して、黒炭の火力は強く800℃近くまで上がります。この温度差を如何に埋めるかの調整が、今回の焼成の課題となります。炭を焼く簡易な方法で伏せ焼きがあります。地面に穴を掘って焚火をし、大きな炎がおさまって熾き火の状態になったならば、土を掛けて密封してしまいます。数日置いて冷却してから収炭します。縄文人はこの炭焼方法を知っていた。だとすれば、予め土器を熾き火の中に納まるように仕掛けておけば、この方法の応用で土器も焼いていたと考えるのに、そう無理はなさそうです。縄文人に成りすまし、土器ダクトに古より開いていた文化の奥義に未来を拓く可能性を秘めていることを思わずにはいられません。さらに焼き畑から始められたと思われるどんど焼き(道祖神、左義長)、煙突作品に御柱、塔としての(ストゥーパ*1 やミナレット*2へ至る)意味づけも加えたいものです。

*1)ストゥーパ stūpa

 サンスクリット語で本来,ものが堆積して高くなり目立つ意味。 (1) 古代インドの丸く土を盛上げた墳墓。 (2) 仏陀 ( あるいは阿羅漢など) の遺骨 ( あるいは髪,持物など) を埋納し,仏教徒たちが尊崇の対象とした半球形,またそれが変化発展した形の建造物,すなわち仏塔。

本文は出典元の記述の一部を掲載しています。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説)

*2) ミナレット bminaret

アラビア語でマナーラ,ペルシア語でミナール,トルコ語でミナーレ。モスクに付属する塔で,上部にバルコニーがつき,内部には螺旋階段がある。イスラムの宗教儀礼として1 日5 回の礼拝の呼びかけをする場所であるが,実際上モスクの外観を飾る役割も果している。本文は出典元の記述の一部を掲載しています。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説)

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