野良の藝術2023に引き続き行いました漕ぎだしたアートの祭りTAKARABUNE2024も無事終了致しました。誠にありがとうございます。みなさまのご支援を心より感謝致しております。
「2024野良の藝術」に向けて、月1回ワークショップを開催しております。このHPの炭焼きの会/ワークショップをご覧ください。
植物を炭にして、地球に戻すことは地球の温暖化防止にも繋がります。今年の企画でも、もみ殻を炭に変えて 農業に役立て、食と農をテーマ大地と人の繋がりを大切に育んでいきたいと存じます。
社会芸術事務局:長田、根本、吉田、長谷川、衛守
*昨年開催しました「野良の藝術2023」を下記動画にて報告させていただきます。
やまんば からのメッセージ
やまんば考 UMENO RINKO
はじめに 1. やまんば(山姥)とは何か? 2. やまんばの出自 3. やまんばと日本神話 ①神々の誕生 ②農業の始まり 4. 西欧との比較 ①西欧の特徴 ②日本の特徴 5. 日本女性の過去と現在 ①古代の女性天皇 ②中世における不貞妻の処遇 ③江戸時代の結婚、離婚 ④妻敵討ちと内済 ⑤現代日本の女殺し おわりに 参考文献 はじめに 〇2023年度のジェンダーギャップ指数 日本は146か国中125位と過去最低 〇2022年度の出生率1.26、7年連続で前年を下回る。 〇日本の重要課題、人口減少、少子化 〇ジェンダーギャップが原因のひとつ? 〇指数だけでは測れない日本女性の現状 1. やまんば(山姥)とは何か 〇旅人に宿を提供する老女、旅人が寝ると食い殺す。 〇定着せず自由、奔放でたくましく、異常な力を持つ。 〇老いてますます盛ん、豊饒な身体や産む力を持つ。 〇里を支配する男やその秩序を揺るがす。 〇里の男は、女性の生殖と性欲を管理。 〇里の女の性役割から逸脱、貞淑、従順、慈悲、寛容、謙譲を欠落。 〇野太い生命力を元に男性に抵抗、反逆の姿勢を示す。 〇柳田國男⇒山姥は黄泉の国ならぬ、この世の山奥深くに生息。 若かったり老いていたり、人を食べる時も。曖昧模糊、変幻自在。 強い生命力と性欲の持ち主。偉大な母神としての正体を隠し持つ。 恐ろしい鬼女、時に里に福を授けることも。 〇河合隼雄⇒息子の自我を阻む「グレートマザー(呑み込む太母)」の変形。 2. やまんばの出自 〇最初に文献に出るのは奈良時代。 〇イザナミの神話が山姥の起源であるとの説(吉田敦彦)。 女神信仰に遡るとの説、姥捨てされた女との説。 西欧の魔女に相当との説など多くの説。 〇昔話によって語り伝えられ、中世以来、説話や謡曲に登場、 近世の絵画、歌舞伎、物語などに描かれ親しまれる。 〇江戸時代「山姥もの」と呼ばれる諸作品の一大ブーム。 近松浄瑠璃、歌舞伎、常磐津、富本、清元、など、 また仮名草子、浮世草子、喜多川歌麿の木版画など、 山姥に言及した数多の物語が創作された。 3. やまんばと日本神話 ①神々の誕生 〇イザナキ、イザナミの夫婦が日本列島や神々を産む。 火の神カグツチ出産で、イザナミが産道に大やけどを負い死ぬ。 黄泉の国へ妻を取り戻しに行ったイザナキは、見るなと言われたのに、 ウジに覆われた妻の姿を見て逃げ出す。(ギリシャ神話オルフェウスと酷似) 〇『古事記』⇒その後イザナキが川で禊をしていると、左目からアマテラス、 右目から弟のツクヨミ、鼻から弟スサノオが生まれた。 〇アマテラスは高天原、ツクヨミは夜、スサノオは海原を統治と命じられた。 スサノオは泣き叫び、イザナキに追放された。 スサノオは、天上で乱暴を働く。あげく機織りの女神を殺した時、 アマテラスは怒って天の岩戸に隠れ、この世は暗闇となる。 事件はアメノウズメの踊りで解決するが、スサノオは天から追放された。 ②農業の始まり 農業や作物は神々から人間にもたらされたとの神話「死体化生型作物起源神話」 〇スサノオ、食物の女神オホゲツヒメを殺す。死んだ彼女の頭からは蚕が、 両目からは稲が、耳からは粟が、鼻からは小豆が、陰部からは麦が、尻からは大豆が発生。 〇『日本書紀』にはツクヨミが同様に地上の食物の神ウケモチを殺す。 〇アマテラスは立腹し、以後、太陽と月は別れた。 〇死んだウケモチの頭からは牛と馬、額からは粟が、眉毛からは蚕が、目からは稗が、 腹からは稲が、陰部からは麦と大豆と小豆が発生。 〇イザナミの死⇒嘔吐からは男女の金属の神、大便からは男女の粘土の神、小便からは水の女神、 頭からは蚕と餌の桑の木が、へそからは、五穀(米、麦、粟、きび、豆)が発生。 〇排泄物や分泌物が人間の役にたつ話は、イザナミとやまんばに共通。(ウル姫子の話 ) 〇やまんばの焼死体⇒薬や金貨など価値あるものが残る。 〇やまんばの死体が溶けた赤い液体⇒そばやニンジンが発生。 〇やまんば⇒元は女神だったとの説。 4. 西欧との比較 ①西欧の特徴 ・農業について 〇欧米人の考え方は、ヘレニズム(ギリシャ思想)とヘブライズム(聖書) 〇ギリシャ神話⇒ゼウスが怒り、人間は苦労して大地を耕し、作物を育てる運命となる。 〇聖書⇒知恵の木を食べたアダム「あなたは一生、苦しんで地から食物を取る」と神に。 ★農業は神から人間に対して課された刑罰との考え方。 ・神々の王について 〇一番偉いのは男の神。地位を得るために、激しい戦いで相手を虐殺。 〇人間が言うことを聞かないとすぐに怒って、罰を下し殺す。残酷な性格。 ・人間の自立について 〇責任ある大人への独り立ち⇒子どもの側から母親の愛を断ち切らねばならない⇒ユング「母殺し」 〇フロイトのエディプス・コンプレックス⇒幼児期に父を殺し母と相姦したいという強い願望、 それを怒った父(超自我)が自分を去勢するのではという恐怖心を持つ。 ・対立について「超自我」を持つ人々⇒善悪を判断する基準が確立、 規範に合わぬものは悪とみなし排除・抹殺⇒世界に争いが絶えぬ。 ②日本の特徴 ・農業について 〇『日本書紀』⇒アマテラスはウケモチの死体からと稲とカイコを天に持ち帰る。 神々が人間に率先していそしむのが農業、貴い神事。 〇農業は神の力を借りる仕事、春の初めに神を迎え、秋の収穫では家に招いてお礼し、送り返した。 〇日本では仕事は神から与えられたものとして、神聖視、仕事に精励するのが生きがいの傾向。 ・神々の王について 〇女神アマテラスが神々の王、世界に類を見ない。出生後すぐ天の神々を統治するように父に命じられ、 平和的に天界の女王の地位に就く。このように王の地位に着く話は他の神話には皆無。 〇アマテラスは慈悲深いが、殺人は許容せず、ツクヨミとスサノオの殺人に激怒。 ・人間の成長について 〇アマテラスは処女神だが、五柱の男神の子の親となり、長子のオシホミミを溺愛。 〇アマテラスの母神としてのあり方は、日本人としての無意識の願望であり、母に対する悲願が実現。 ⇒エディプス・コンプレックスでは説明できぬ日本人の心理。 ・対立について 〇対立するものの一方が他方を、完全に排除・抹殺せず。物事の決定はみなの合議の結果に従う。 ★決定の仕方「個」の論理・倫理の欧米に対して、「場」の論理・倫理の日本。 5. 日本女性の過去と現在 ①古代の女性天皇 〇古代天皇制の研究者義江明子氏 ⇒女帝を多く輩出した古代には、子の血統的地位を決定する存在として、 父母の名を記し、男子女子区別なく出生順に同母のキョウダイの名を、 列記する双系系譜が作られた。 〇背景⇒同母子単位の生活があり、男子女子の社会的地位に、 基本的な差はなかった。 〇7世紀末~8世紀初めの律令国家形成期 ⇒父系帰属原理が公的に導入され、8世紀後半で古代女帝の歴史は終わり、 日本は次第に父系社会になっていく。 ②中世における不貞妻の処遇 〇西欧では、不貞の妻は殺されるが、日本では間男が殺される。 〇平安時代以降の武家社会⇒夫の自宅で妻と不倫した間男の現場殺害は容認。 現場以外では、夫は処罰の対象。 〇不貞の被害の補償は間男に向けられ、補償としての殺害。 ★不倫の妻の殺害は必ずしも行われず。 〇13世紀鎌倉時代の御成敗式目⇒不倫した武士は所領半分没収の上職務罷免。 〇15世紀室町幕府⇒「夫による間男と妻の殺害は道理に適う」とした。 理由は、間男の身内による敵討の応酬を諦めさせるため。 〇「夫が間男を殺したことに対する復讐を、間男に代わって夫が、 夫の身代わりたる共犯の妻を殺害することによって、相殺する」との考え。 ⇒「相当之儀」(相殺の原理) ③江戸時代の結婚、離婚 〇武士の娘の結婚は、若干家格の低い家と縁組みする傾向あり。 〇離婚時、夫は妻の持参金を返す必要あり。返済ができなければ、自転車操業。 〇妻の衣類や家具は妻固有の財産。妻の同意なしの質入れは、離婚の理由に。 〇離婚時、妻の父は持参金品の全額返却を迫り、札差から借金して返却した例あり。 〇当時の結婚離婚は経済的行為⇒家計の苦しい武士、妻の持参金多いと離縁を我慢。 〇夫の家格より高い実家を後ろ盾に、妻は夫に対して優位。『女大学』はタテマエ。 〇離縁状としての三下り半⇒妻が次の再婚に必要な書類⇒再婚免状、再婚許可証。 〇幕府法⇒他に女ができ今の妻を離縁することは「不実離縁」として制裁受ける。 ⇒女との再婚はできない⇒「不実離縁」は社会通念として許されず。 〇当時「女房と鍋窯は古いほどよい」「女房に惚れてお家繁盛」など言われた。 ④妻敵討ち(めがたきうち)と内済 〇18世紀半ば江戸中期に制定『公事方御定書』 ⇒密通した間男と妻は死罪と定められ、二人を殺した夫は無罪。 〇妻敵討ちとは、本来間男を殺すこと。のちに逃亡した間男と妻を、 夫が探し当てて殺害する行為。事前に町奉行所、目付けに届け出が必要。 〇不倫が発覚しても通常は夫による殺害は行われず⇒内済(示談)が普通。 〇妻敵討ちには多大な金銭的負担⇒費用が藩から分割払いで貸与されていた例も。 〇示談金、大坂「堪忍五両(約40万円弱)」江戸「間男七両二分(約60万円弱)」 〇不倫妻⇒必ずしも夫に殺されたり自殺したわけではない、離縁されない例も。 〇歴史の詳細を知ると、女性の地位は想像していたよりも守られていた? ★女性の地位は、明治時代に入り、西洋のキリスト教文化が入ってきたときに、 大きく低下した。 ⑤現代日本の女殺し 〇2004年『ル・モンド』の記事 ⇒16~44歳のヨーロッパ女性の死因一位はDV 〇2019年フランスで「女殺し」に対する大きな反対デモ 〇現代日本の「女殺し」は? 「配偶者間(内縁を含む)における殺人の被害者の男女別割合 (検挙件数,過去10年分)」について(内閣府男女共同参画局) その11年に渡る推移が次の表である。(2023.7.26調査) 〇驚くのは、女性の死者数ではない。女性の死者数に対する男性の死者数は、 時に80%を超えている⇒寝首を掻く女たち? おわりに 〇外国から新しい文化が入ってくると、男女平等度が低くなる日本。 ⇒大宝律令(701)の奈良時代 ⇒明治維新西欧からのキリスト教の影響。 ★日本の女、男について、神話、歴史から新たな視点を得る。 ★やまんばは日本の女の原型。 ★やまんばは多くの現代女性芸術家に、価値ある女性の原型を提示しうる。 参考文献: 氏家幹人『不義密通』洋泉社、2007年 氏家幹人『江戸人の性』草思社、2013年 勝俣鎮夫『中世武家密懐法の展開』「日本家族史論集6 家族観の変遷」片倉比佐子編、 吉川弘文館、2002年 高木侃『三くだり半と縁切寺 江戸の離婚を読みなおす』講談社現代新書、1992年 高橋秀樹『中世家族における女性の地位をめぐって』「争点 日本の歴史」第四巻 中世編 峰岸純夫編、新人物往来社、平成三年 西岡まさ子「江戸の女ばなし」河出書房新社、河出書房新社、1993年 水田宗子、北田幸恵編『山姥たちの物語』學藝書林、2002年 義江明子『女帝の古代王権史』ちくま新書、2021年 吉田敦彦『日本人の女神信仰』青土社、1995年 吉田敦彦『日本の神話』青土社、2002年 吉田敦彦『日本神話の深層心理』大和書房、2012年 他 2023/7/23 梅野りんこ